「アサガオ」と聞くと、夏の風物詩を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
一方で、名前の似ている「昼顔」「夕顔」「夜顔」は、あまり意識されることがなく、同じ仲間の花だと思われがちです。
実は私自身も、ずっとアサガオ以外の花にはあまり意識がありませんでした。
しかしある夏の日、涼を求めて風鈴を眺めていたとき、ふとその先の棚に「ひょうたん」がなっているのが目に入りました。
ひょうたんと夕顔は仲間だと知っていたので、その時、「なぜ朝・昼・夕・夜と名前がきれいに揃っているんだろう?」と不思議に思ったのです。
この些細なきっかけから調べてみると、そこには時代が進むごとにパズルのピースが埋まっていくような、歴史と文学の物語が隠れていました。
今回は、知ると誰かに話したくなる「4つの顔」の秘密を紐解きます。
そもそも何が違う?4つの花の特徴
まずは、それぞれの花の比較をサクッと見てみましょう。
| 花の名前 | 主に咲く時間帯 | 科 |
|---|---|---|
| 朝顔 | 朝 | ヒルガオ科 |
| 昼顔 | 日中 | ヒルガオ科 |
| 夕顔 | 夕方 | ウリ科 |
| 夜顔 | 夜 | ヒルガオ科 |
それぞれの特徴をもう少し詳しくまとめると
- 花の特徴:青・紫・赤など、さまざまな花色がある
- 葉っぱ:ハート形が基本で、園芸品種ではさまざまな形がある
- 咲き方:早朝に咲き、午前中にはしぼむ
- その他:つる性で、支柱などに絡みながら成長する
- 花の特徴:淡い桃色が多く、野に咲く素朴な雰囲気
- 葉っぱ:細長く、基部が耳のような形をした葉
- 咲き方:日中に花を開く
- その他:地下茎を伸ばして広がる多年草
夕顔(ユウガオ)
- 花の特徴:白くて大きく、ふんわりした形
- 葉っぱ:ハート形で、やや浅く切れ込む
- 咲き方:夕方に咲き、翌朝にはしぼむ
- その他:ウリ科の植物で、実は「かんぴょう」の原料
夜顔(ヨルガオ)
- 花の特徴:白く大きな花で、香りがある
- 葉っぱ:ハート型を基本とする
- 咲き方:夕方から夜に咲き、翌朝にはしぼむ
- その他:熱帯アメリカ原産で、日本には明治初めに伝わった
注目すべきは、「夕顔」だけがウリ科(仲間外れ)という点です。
なぜ、植物としては別々なのに、ひとつの「時間シリーズ」のような名前になったのでしょうか?
歴史の古い順に紐解いていきましょう。
1000年の時をかける「4つの顔」名前の歴史ミステリー
ピース①【【奈良〜平安時代】「朝」と「夕」の名前が登場
歴史をたどると、まず古い時代から登場するのが「朝顔」と「夕顔」です。
朝顔(アサガオ):平安の古典にも登場する花奈良時代の末から平安時代の初めにかけて、中国から伝わったとされています。
当時の朝顔は、主に種を利用する目的で栽培されており、「牽牛子(けんごし)」と呼ばれて薬草園にも植えられていました。
ちなみに、平安時代の古典文学に登場する「朝顔」は、現在のアサガオではなく、キキョウやムクゲの花を指していたという説が有力です。
今のアサガオが主役になるのは、江戸時代の園芸ブームまで待つことになります。
夕顔(ユウガオ):かんぴょうのウリが文学の主人公に
夕顔はウリ科の植物で、現在では「かんぴょう」の原料として知られています。
日本では古くから栽培されてきた植物で、夕方に白い花を開き、翌朝にはしぼむことから「夕顔」と呼ばれるようになりました。
そして、この花を一躍有名にしたのが『源氏物語』です。
『源氏物語』には「夕顔」という巻があり、垣根に咲く夕顔の花と、そこから名をとった女性が登場します。
こうして、野菜としても利用されてきたユウガオに、「夕顔」という情緒的なイメージが重なっていったのでしょう。
ピース②【江戸時代】「昼」の名前が加わる
昼顔(ヒルガオ):昼に咲くから「昼顔」昼顔は、日本の野原や道端などで見られるヒルガオ科の多年草です。
古い時代には「容花(かおばな)」などの名前で呼ばれていたとされますが、「容花」が現在のヒルガオを指すかどうかには諸説あります。
一方、「昼顔」という名前は江戸時代より前から使われていました。
1638年の『毛吹草』には、すでに「昼顔」の用例が見られます。
名前の由来は、その名のとおり昼間に花を開くこと。
朝に咲くアサガオに似た花が、昼間にも咲いていることから「昼顔」と呼ばれるようになったと考えられています。
こうして「朝」「夕」に続いて、「昼」という時間の名前も加わりました。
ピース③【明治時代】「夜顔」が揃って4つの時間が完成
夜顔(ヨルガオ):明治にやってきた新しい顔最後に登場するのが「夜顔」です。
熱帯アメリカ原産のヒルガオ科の植物で、日本には明治初めに伝わったとされています。
夕方に白い大きな花を開き、翌朝にはしぼむ、この花は現在では「夜顔」と呼ばれています。
ここで、時間のパズルが揃います。
朝顔 → 昼顔 → 夕顔 → 夜顔
と、まるで1日の時間が順番に並んでいるようです。
明治の園芸家が「夜顔」と名付けたと語られることがありますが、その由来を示す確かな資料は残っていません。
それぞれ別々の花が、別々の時代に名付けられたにもかかわらず、後から振り返るとひとつの時間の並びが自然に形づくられていたように見えるのです。
この偶然の重なりこそが、「4つの顔」のいちばん面白いところなのです。
おわりに
朝顔は、昔から夏の風物として親しまれてきた花です。
朝顔を見ると、子供のころ夏休みに持ち帰った鉢を毎日のぞき込み、水やりをしていた記憶がよみがえります。
宿題は好きではなかったけれど、朝顔の成長を見るのは楽しみでした。
一方で、昼顔・夕顔・夜顔は、名前は似ていても咲く時間も種類も異なり、それぞれが自分にいちばん似合う光の中で花を開きます。
こうして違いを知ると、夏の景色が少しだけ豊かに、そして立体的に見えてくるように思います。
今度、道端や庭先でこれらの花を見かけたら、ぜひその「名前の歴史」に思いを馳せてみてくださいね。





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