子どものころ、庭で採って食べていた、私にとっても身近な果物です。
古くから人々の食卓と暮らしを彩ってきた、そんなイチジクの「長い旅路」を今回は辿ってみます。
「実の中に花を隠している」不思議な魅力
イチジクは漢字で「無花果」と書きます。「花が無い果実」と書くその名の通り、枝を見渡しても桜や桃のような華やかな花を見ることはできません。
しかし、実は「花が無い」のではなく、「実の内部に小さな花を隠している」のです。私たちが「果実」として食べている部分の内側には、たくさんの小さな花があります。
外からは花姿を見せず、実の中でひっそりと花を咲かせる――。
そんなイチジクの不思議な構造も、魅力の一つです。
遠い西の国から始まった、イチジクの旅
イチジクは、西アジアから地中海沿岸にかけて、古くから人々に利用・栽培されてきた果樹です。
紀元前の大昔から人々に利用されてきたこの果実は、乾燥させることで保存性が高まり、遠くへ運ぶこともできました。旧約聖書の『創世記』にも、アダムとイブが「イチジクの葉」で体を隠したという有名なエピソードがあります。
それほど古くから、人々の暮らしに寄り添ってきた果実なのです。
シルクロードを渡り、東の国へ
生のイチジクは日持ちがせず傷みやすい果実ですが、乾燥させることで保存しやすくなり、遠くへ運ぶこともできます。
西アジアから東へと広がっていったイチジクの歴史をたどると、シルクロードによってさまざまな人や物、文化が行き交った時代の東西交流とも重なって見えてきます。そして長い年月を経て、唐の時代の中国(7〜9世紀ごろ)にもイチジクの姿が見られるようになります。
シルクロードを行き交う人々や物の流れの中で、イチジクもまた東へと広がっていったのでしょう。そんなふうに想像すると、なんだかロマンがありますね。
数百年の時を経て、ついに日本へ
中国では唐の時代には、すでにイチジクが知られていたとされています。一方で、日本に伝わってきたのは江戸時代初期(17世紀ごろ)のことです。
お隣の国から日本に伝わるまでには、数百年もの時間が流れていました。
お隣の国から日本に伝わるまでには、数百年もの時間が流れていました。
日本へ伝わった「2つのルート」の謎
イチジクの日本への伝来については、いくつかの説があります。- 中国を経て伝わったとする説
- 西南洋やポルトガルを経由して長崎に入ったとする説
シルクロードから中国を経て渡ってきたのか、それとも大航海時代の波に乗って海を越えてきたのか。どこからの経路だったのかは、はっきりとは分かっていません。
江戸時代の本草書、貝原益軒の『大和本草』には、寛永(1624~1644年)に長崎へイチジクが植えられたことが記されています。
ひとつの果実が国から国へと渡っていく背景には、距離だけでなく、その時代の交易や人の往来も関わっていたのだと思うと、不思議な気持ちになります。
江戸時代には「蓬莱柿」「南蛮柿」「唐柿」などの名前でも呼ばれていました。
ひとつの果実が国から国へと渡っていく背景には、距離だけでなく、その時代の交易や人の往来も関わっていたのだと思うと、不思議な気持ちになります。
江戸時代には「蓬莱柿」「南蛮柿」「唐柿」などの名前でも呼ばれていました。
暮らしの中で愉しむ!イチジクと生ハムの洋風サラダ
フレッシュなイチジクを使って家庭で簡単に作れる特別な一品をご紹介します。
🥗 イチジクと生ハム・チーズの極上サラダ
材料(2人分)
- ・生のイチジク:1〜2個
- ・生ハム:適量(数枚)
- ・カマンベールチーズ:お好みで
(またはモッツァレラやマスカルポーネ)
- ・オリーブオイル:大さじ1
- ・粗挽き黒コショウ:少々
- ・ハチミツ:お好みでほんの少し
作り方
- 1. イチジクは優しく洗い、くし形(4〜6等分)に切り分けます(皮はお好みで剥くか、柔らかければそのままでも美味しくいただけます)。
- 2. お皿にイチジクを並べ、手で一口大にちぎった生ハムとチーズをふんわりと乗せます。
- 3. 仕上げにオリーブオイルと粗挽き黒コショウをふりかけます。はちみつはお好みで。
我が家では、甘じょっぱい味が好きなので、はちみつをほんの少し加えます。
イチジクのねっとりとした食感とほどよい甘み、生ハムやチーズの塩気がよく合い、ワインのお供にもおすすめです。
おわりに
イチジクの旬は「夏〜秋」で、私の感覚ではザクロより少し早く店頭で見かける印象があります。
以前は初夏よりも盛夏のほうが手に取りやすい価格でしたが、 最近は季節に関係なく同じくらいの値段になってきたように思います。
昔は庭の木で気軽に採れていたイチジクも、物価がじわじわと高くなるにつれ、いつか手が出せない高級品になってしまうのではないか……そんな取り越し苦労をしてしまうのは、私だけでしょうか。


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